道26
2019/3/2
イメージを頭に 叩きこんだ流れは完璧なのに、焦りで空回り。
「いうほどじゃないのね」
はっきりと聞こえたあのクスクスの混じった言葉に、何も実力で返せなかったのがキツカッタ。
動画を何度もひたすら見て、覚えなきゃ、覚えなきゃと思う度にクスクス混じりのあの言葉が、頭の中から消えない。
いい加減寝ようとしたら、眠れなくなって、こういう時は癒しの漫画を読むか・・・。と取り出したが最後。
どんどん眠れなくなっていき、漫画の次は動画でも、と、次から次へ。
いつの間にか寝てしまったのだと思う。
ふと起きるとお昼だった。
そしてなんだかだるい。
心の傷をいやしてくれる人が身近にいたらよかったのに。
気持ちが弱っている時のない物ねだり。優しく声をかけて、ささくれだった気持ちを慰めて欲しい。
直紀さんが天然だったら、救われたかも。あまりにも完璧なんだもん。
自分のできなさがより鮮明になって、結局それで受けるダメージが大きくなる。
一緒に生活してるからって、教えてもらっているからって、直紀さんと同じにできないよ。
頭で分かってる。
私には私らしさがあるし、私の良さがあるはずという事。
でも、自信がない。
あんな言葉、演出家から言われたのじゃないのに、性格悪いブスめ。と思ってみたけど
身に応える。
はあああ。行きたくない。出かけたくない。このままだらだらと引きこもっていたい。
そう思いながら水を飲みに台所に行くと、
ミスター完璧がそこにいた。
「おはようございます」
礼儀には厳しいのでね。この人。朝の挨拶は欠かせない。
「おはようという時間でもないけど、具合でも悪いのか?」
「チョット眠れなかっただけ。大丈夫」
なるべく表情を読まれないようにソファーに座る。
「彩花、念のため熱計っておけ」
「はい」
別に、熱なんてないのに。
「彩花?」
やばい。
仕方なく体温計を取りに行く。
ほら、熱なんてないよ。36度2分だもの
「大丈夫だった。午後から稽古だし」
その時は、本当になんでもなかったし、お稽古も問題なく終わった。
そこそこのできで、クスクス笑いされなにかとびくついていたけど、大丈夫だった。
「あれ?吉沢さん?」
「直紀にお迎え頼まれた」
「えっ。私?」
「ちょっと直紀はまだ外せないからな。暇な俺が来たって訳」
ふふ。吉沢さんはいつもそうやって、気を使わせないような事を言ってくれる。
優しいんだよね。
「はーーー。吉沢さんみたいに優しくて、ちょっと天然だったらいいのに」
「一応誉め言葉と思って受け取っておく」
「ほめてる。ほめてる。我が師匠は厳しすぎるし完璧すぎると思うの」
「確かに、あいつは隙がないよな」
「直紀も天然ボケな所もあるけど」
「見たことない」
「いつも正論で、ぐうの音も出ない追い込みしてくるもん」
ふふ。
「彩花ちゃん、よく見てるね」
「ま、朝具合悪そうだったからって、一応直紀も心配していたわけだし、悪いやつじゃないぞ」
「分かってる。直紀さんも優しいよ。でも怖い時は尋常じゃなく怖いんだもん」
「まあ、彩花ちゃんには確かに厳しいな。門限とかいつまで設定し続けるんだよって思うよな」
「そうそう。吉沢さんから注意してください(笑)」
「やっと笑顔になった」
「帰るよー」
あ。吉沢さん。やっぱり優しい。
「ちょっと寄り道したい」
そういってカラオケに連れて行ってもらった。
門限?吉沢さんと一緒だしいいよね?
それに吉沢さんは聞き上手で、ちょっと凹んだ出来事とか自然に話せてしまう。
「彩花ちゃん、途中で少し遅くなるとは連絡したものの、そろそろ帰らないとまずいかも」
「え。黙って遅くなろうと思ったのに!」
「いやいや。俺が殺される」
「あ。もしかして、直紀さんご立腹だった?」
「多分・・・。ちょっとだけ寄り道するけど許してくださいとはお願いしといたけど、どうかな」
しーーーーーん。
お仕置きかも・・・。
「わかった。帰る」
しばし、我に返るのに時間を要したけれど(だってめちゃ怖いんだよ。お仕置きのときの直紀さん)家に帰る事には了承した。
送ってもらって、玄関で別れて。お礼を言って。
じゃあ、部屋へ!
と思ったら当然止められた。
「彩花、こっち来い」
「話がある」
いや。私はしたくないんだけどな・・・。
得意の、怖いモードじゃん。その痺れる低音。余計に怖い。
「返事!」
「はい」
「それで?黙って門限破った理由を聞こうか」
「理由は。その。気分っていうか」
「彩花!」
「だって、直紀さんの顔怖い顔だから」
「門限遅れておいて『ごめんなさい』も言えない子をとりあえず家にいれてやっただけでも寛大だと思うけど、
さらにどうしろと?」
「なんでもないです」
「約束守らない子がいるというだけでなく、自分がしたこと反省もしてなかったとは驚きだな」
「舞台の練習中だからといって、大目に見るつもりはしない」
しゅん
「彩花、言う事は?」
「でもいいたくない」
「じゃあ門限守らなかったのと、約束破ってその態度はお仕置きする」
「『ごめんなさい』も聞いてないしな」
「ごめんなさい」あわてて言う。
「こっち来い」
ポンポンって膝叩いて乗れと合図。
ひーーー。その膝の上には行きたくないよー。
お仕置きやだ。
自分が約束守らなかったのが悪いのは分かってる。でも、まっすぐ帰りたくなかったし、
吉沢さんに話せて少し気が楽になったのに。
それでも、反抗期みたいに、直紀さんを前にすると、何もかもが上手く消化できなくて、プイっとしたくなってしまう。
そんな事しても何にもならないのわかってるのに。
「まったく」
「いくつお尻叩いたら、素直に反省できるんだろうな」
知らないよ。そんなの。反省したくないし。ごめんなさい言ったし。
やだやだ。って思うのに、膝に腰を押されて乗せられて。
スカートもパンツも下される。
大っ嫌い。こんなの、こんなのやだ。
あ。やばい。ちょっと強め・・・。痛い。痛い。これ続いたらヤバイ。
パチン パチン
『痛い』と言わずに我慢してやろうと思ったのに、痛いと言わない事によって
痛く無いのかと思われてもっと強く叩かれたらどうしよう。
強めの感じが同じ速度で続くし、いくつ叩かれるのか分からない不安もあって、もぞもぞと逃げようとするのに
身動き取れない。
やだ。やだ。
「い、痛い!痛い!もう痛い。我慢できない。痛い。直紀さん。直紀さん痛い」
「聞こえてるでしょーーー」
「聞こえてる」
いや。そうじゃなくて
「お仕置き終わりにして」
「素直に反省できるまでは膝から降ろすつもりはない」
「した。した。反省した。ごめんなさい。門限破ってごめんなさい」
「タオル取ってくる」
いったん、膝から降ろされたけど、終わりって言われてないのが少々不安。
お、終わりかな?
「少し冷やしたらもう一度膝の上な」
がーーーーーん
「終わりにして欲しい。痛くて、これ以上無理」
もう降参。白旗です。
「門限破ってごめんなさい。ちゃんと連絡自分でして、許可取るから」
「や。やだ。やだ。タオル取らないで」
お尻を手で隠すけど、その手首を取られて、見事に膝の上に誘導。
「何が悪いかはわかったみたいだから、悪い事したら、お仕置きされるの覚えておこうな」
「やああああ。もう門限守らなかったお仕置きはしたはずだもん」
「今のは反省してなかった分。反抗し続けるなら、素直にさせるまでだ」
ぞっ。言い返せない。全部その通りなんですけどーーーー。
「言ってあったよな?自分で連絡しろって。まあ、する気もなかったみたいだからより厳しく躾けないといけないけどな」
「わ、忘れてたんだもん」
「追加」
うぐ。口は災いのもとだった。嘘ついたらもっとお仕置き追加になっちゃう・・・・。
「適当なごまかしは一切認めないからな」
「はい」
しょんぼり。
「始める」
ひぃ。さっきより痛い。きっとさっきより強く叩いてる。
痛いお尻の下の方重点的とか本当にオニ。
「自分が出来てない事を第三者に言われるのが恥ずかしい事だっていうのは分かる」
「な、なんで」
「いいから聞け」
パチン パチン
お説教かお尻叩くのかどっちかにして欲しい。両方同時はマジきつい。
「悔しければ練習しろ。それしか挽回する方法はない」
パチンパチン
だから、そんなこと分かってるし。
「それを、ぐれて夜更かしして、さらに吉沢付き合わせてカラオケ行ったところで解決になるのか?」
「よけい、自分が傷づくだけだろ。やらずに逃げてる自分を認識した時、さらに悔しくなるんじゃないのか?」
お尻が痛いから、泣いてるんだもん。
お説教がストレートに心に突き刺さるように入って、ふがいない自分に泣いてるわけじゃないもん。
そんな事指摘されたくないんだから。
「痛い!痛いから。もう同じ所、何回もされてるし、すごく痛い。反省してるから」
涙声になってしまうけど、痛さについては抗議。
本当はお尻の痛さより言葉が突き刺さった痛さの方が、強かった。
自分が傷づいているのをどうにかやり過ごそうと、見ないようにしてるのに、正面から突き付けられた。
そして、その言葉は本当に私の中で正に、抱えている思いだった。
「ん?練習するつもりもないという事か?」
「します」
速攻。返事。
「やってない自分が悔しかったわけだ?」
・・・
「あやかー。認めないと膝から降ろさないからな」
「やだ。そんなの恥ずかしい。無理」
「いや。いや。強くしたらやだ。さっきより痛い」
「直紀さん、直紀さん痛い」
「俺は終わる為にはどうするかおしえてやったぞ」
ちっ。だって、そんな自分が一番悔しくて、他人に触れられたくない事を『そうです』って認めるのやだ。
しかも、しかも、直紀さんに。
「できなくて悔しかったんだろ?」
「うん」
「できなくて悔しかったのか?」
「できなくて悔しかったです」
オニ!オニ!
ギブ。精神的にも、肉体的にも最高級に追い詰められた。だって、だって酷いよ。
痛い所と同じ箇所そ何度もたたいて。
もう無理なのに。
まだ叩いてくるなんて。
逃げられないようにがっちりホールドされてるし、
ペースは直紀さんペースだし。
ひどい。ひどい。
でも何よりも、『できなくて悔しい』なんて、直紀さんには言いたくなかった。
目を反らそうとしている事を認めたくなかった。
できないことが悔しくて、その上、性格ブスに負けたことになるなんて、認めたくない。
それなのに
「タオル冷やしてくる」
そういって、冷たいタオル持って戻ってきてくれて、ズキズキするお尻を冷やしてくれた。
「思うようにできないのは悔しいよな。でもそれは自分で悔しいと思っている気持ちに
ちゃんと向き合う必要がある」
「嫌だから、それを見ないように他に逃げても、罪悪感だけ抱える事になる」
「わかるな?」
「はい」
「じゃあ、お説教は終わり」
「聞きたい事があったら、聞け。それ位は俺にもできる」
ええ!嬉しい!
「ただし、努力しないなら、教えない」
身の引き締まる補足。かしこまりました!嬉しい!嬉しい!
「はい」
「できない自分を許せない所に、それを誰かに言われたからと言って、反応する必要はない」
「その通りだと思って精進しろ」
吉沢さん、全部喋ってるんじゃん。。。。
「吉沢にお礼いっておけ」
「『彩花ちゃんを怒らないでやってくれ』と言われたぞ」
「がっつり叱ったじゃないですか。手加減ゼロで」
「ん?彩花が家に入れてもらえたのは吉沢のおかげだぞ」
「あいつが言うから、一応、彩花が心入れ替えるなら許す事にしようと、時間は作ってやることにした」
ぞっ。そ、そんなレベルで直紀さん怒ってたの。。。
今更ながら直紀さんに連絡もせず寄り道したことを猛省。そして吉沢さんに猛烈感謝。
「お礼言います。吉沢さんに」
****
直紀さんにがっつり叱られて、でも家を追い出されなかったのは吉沢さんのおかげなんでと
お礼の電話したら、
「あいつ、そんなこと言ったの? 彩花ちゃんを俺に迎えにやらせる位だから、家に入れないなんて事は無かったはずだよ」
「まあ、あいつも彩花ちゃんが前向きになって欲しかったんじゃないのかな」
「めでだしめでたしだから、そんなのいいんだよ」
「で、叱られちゃった?」
「がっつりと。精神的にも相当ダメージのあるお説教だった」
「お尻も?」
「それ、デリカシーゼロですね」
「まあ、そうです。ものすごい痛くされました」
「彩花ちゃん、応援してるから、直紀にがっつり叱られる前に相談に乗れる事があるかもしれないからさ」
「いつでも連絡してくれていいから」
「ありがとうございます。でも、吉沢さんは直紀さんを一番大切にしてますもんね。吉沢さんに言ったら、直紀さんに筒抜けだから」
「あはは。彩花ちゃん、本当によく見てるね」
「だって、直紀さん性格ブスに言われてダメージ受けてるの知ってたもん」
「まあ、そうだけど、それでも直紀ががっつりお怒りモードになる前にワンクッション入った方がいい事あるかもしれないからさ」
「心の片隅に相談してもいいかもと思ったら俺の事もリストの中に入れといてよ」
「はい」
吉沢さんって面白い。
そして、直紀さんには全部、喋っちゃうだろうな。この人はっていう確信。
そっか。だから今日吉沢さんのお迎えだったのか。
結局私はまだまだ未熟者。
でも、大切に多分されてるし、気にかけてもらってる。
そんな気がする。
よーし。頑張って踊ろう!練習しよう!
~蓮の花~