道13
2013/08/10
「もう一度膝においで」
もう一度って言われたって、そんなのたまらなく嫌だった。
動けなかった。何を拒絶しているのか、分からない程に、混乱してて、
兎に角冷静では無かった。
「わかった」
「そこに座って」
座ったらお尻が痛くって、ズキンってして、なんだかもう訳分からなくなってて
視線がさまよった。直紀さんの顔を見る勇気は無い。
それなのに、私の真正面に座った直紀さん。
膝が目の前だからわかる。
「10回ゆっくり深呼吸して」
段々落ち着いてくる。段々息が深く入るようになる。
「彩花、自分で色んな事をまぜこぜにしちゃってるみたいだから、一つ一つ話しようか」
そういった、直紀さんの声はとても柔らかくって、落ち着いていた。
そっと頭を撫でてくれるなんて反則だと思う。
怒って、ビリビリした声というのではなく、その声が穏かだった事に驚くと共に、ちょっと力が緩む。
「打ち上げだったり特別な機会であれば、次の日に影響しなければ、僕だって行ってもいいと思っててる」
「だけど、約束した時間に家にいられないのなら、報告は絶対に必要。連絡しなかった事は悪い事。
わかるね?」
「はい」
「連絡してあっても、お酒を飲むのは、話が別だ。これは絶対に叱られる内容だよね?」
「はい」
「遅刻した時、他のせいにして自分自身は悪いとは思っていなかった事も。これも、お仕置きされるべき内容だ」
ひーーーん。
逃げ場無しのお説教・・・。
「いつもの仲間だろうと、違う仕事に参加して環境が違う時だって、いつだって、自分が判断基準。その度ごとに、周りに流されてたら、自分を見失うぞ」
あれ?ん?
「これから先、彩花は誰の判断でやるやらない、行く行かないを決めていくんだろ」
「判断基準を持っているのは自分しか無いという事をもっと意識しないと駄目だという事を言いたいんだよ」
はっとした。
私はお仕置きが痛いし、嫌だから、膝の上でふてくされつつも、色んな事を直紀さんに言わなかった事だけ叱られてる位にしか思っていなかった。
「やってもいいと、自分が決めたのなら、もしそれが駄目と言われている事ならば、交渉して、それでもやりたいのなら、やり通せばいい。どんなにお尻を叩かれたってやりたい事なら納得の上だろ?」
「まあ、仮にその判断が根本から間違っていたのなら、俺が二度としないと分かるまで膝の上からは下ろさないけどな」
「何でもう一度膝に乗せられるかわかった?」
「俺が目を光らせてたら、絶対しない事を、居ないのをいい事に『まあいいや』というの態度が見えるから
叱ってるんだ」
「自分の基準でもなく、やってはいけない事も見失って、流されて・・・。まったく目を離すとこれじゃ世話がやける」
「ごめんなさい」
「膝においで」
間髪いれずに言われたその言葉にびくっとなる。
いないのをいい事にだらけた判断思考だった事を指摘されて、
恥ずかしくって、顔なんて見られない。
うつむいたまま、そっと膝の上に乗る。
パチン パチン パチン パチン
あまりの痛さに、そして、あっという間に始まったお仕置きに、逃げようとしてしまいそうになるのを
必死にこらえる。
何も言ってくれない。
私も『痛い』といってしまいそうで、そうしたら、反省してないみたいで、
自分のちっぽけなプライドが邪魔をして、奥歯をぐっと噛んで我慢するので精いっぱい。
「あああ。痛い」
でも、やっぱり、敵わない。
数発なんかで終わるはずも無く、私が単なるプライドと反抗心一杯で、
対抗しているだけなのはきっとお見通しだったんだ。
痛い所を集中的に、そして、お尻が逃げそうになろうものなら、ぐっと腰に回した手で
動きは封じられる。
「ごめんなさい」
「ご、ごめんなさい」
頭の中が空っぽで、痛さと、自分が悪かった事だけしか分からなくなった頃に
漸く手が止まった。
「久々に会って、お仕置きは俺だって勘弁なんだぞ」
「すみません」
「まあ、すっかりしおらしくなった所を見ると反省はしたみたいだけど」
「はい」
「ごめんなさい」
私の、ちょっとした解放感と、一人で寂しいからいいよねという訳のわからない理由での約束破りはこうして
こっぴどく叱られる結果となった。
「自分の基準が無いまま、生きられる程この世界は甘く無い。評価は後からしか付いてこない」
「俺が言葉で伝えてやれるのはそれだけだけど、そのうち自分でもわかると思う」
「はい」
「俺に認められたくって、舞台に出たいのなら、俺がいなくなったら評価基準がなくなっちゃうぞ」
「自分がやりたくって出たのに、自分自身で判断する前に全部人の評価で生きる事を選択したら、
自分の人生どこにもなくなっちゃうぞ」
ズキン
「自分でしか、自分の魅力は作れない。ましてや舞台に立つのなら、それはとても孤独な道だと覚悟がいる」
「その覚悟が無くって、誰かの評価の為なら、今以上の伸びは無い」
「キツイ事いうけど、後は自分で考えろ。どうするかの答えを人に任せたりしたら本気で俺は怒るからな」
「はい」
「1時間自分の部屋で気持ちを整理しておいで」
「1時間したらもう一度戻っておいで」
なんだろ?
一時間後にまさかまた・・・?じゃない事を祈りつつ、言われた通り席を立つ。
「冷やしてもいい?」
「ああ、自分でしっかり冷やしといで」
「ちゃんと考えるんだぞ」
「自分で理解した悪かった点について反省しておいで」
~蓮の花~