道19
2016/8/8
私ってメンドクサイ。
自分でもわかってる。すぐにうじうじして、自信が無くなってしまう。
頑張る気持はあるけれど
負のスパイラルに入ると悶々としてしまう。
『いいわね、どんなコネ使ったらその程度で役をもらえるの?直紀さんも大変ね』
心無い言葉が水に垂らしたインクのように、どんどん広がって心の中に暗闇を作っていく。
昼間は練習しているから忘れているけれど、
ふとした瞬間にそのあざけるような視線のあの人の不愉快極まりない顔が脳裏にフラッシュバックする。
私なりに、頑張ってる。それを知りもしないで。
でも、あまりの言葉に言い返す事も出来なかった。
黙っていた事が、認めてしまっているようで悔しい。
練習終わって、なんとなくその場にいる面子で食事した帰り道、直紀さんが珍しく声をかけてきた。
「元気ないのな」
「あ。いえ。そんな事ないです。ちょっと楽しすぎた余韻で、ぼんやりしてただけです」
「もう一軒寄って行くか」
「え?あ。え?」
「行くぞ」
「はい!!!」
素敵な、落ち着いたバー。
空間はあって、数席あるテーブル席につく。カウンターも一枚板で素敵だったな。直紀さん、誰と来るお店なんだろう?
「で、ぼんやりの原因は何?」
こんな素敵なバーに来ておいて、ウーロン茶は流石に無いと交渉して、
フルーツで作ったノンアルコールカクテルをお願いした。
ビックリする美味しさに、うっとりしていたら直紀さんは先ほどの件をさらに突っ込んできた。
なんで。
珍しい。
自分の事自分で何とかしろというタイプの人だし、声をかけてくれる事なんて・・・。
あ。でも、思い返して見ると、いつも私が自分で考える時間を与えてくれて、
それでも駄目な時はタイミングみて声をこうしてかけてくれる人だったのかも?
「大したことじゃないです」
「じゃあ、話して」
「嫌です」
「自分の中で嫌な事を何度も何度も反芻して確認するのは、体に良くないと思うよ」
ギク。
もしかして?知ってる?
ちらっと顔を見たら、正面の飾ってある酒瓶に視線を向けたままだったから、横顔がキリリとしてかっこいい。
・・・
カクテルに向かって仕方ないので喋る。
「コネで役もらってるって言われて、それで、それで、直紀さんまで中傷されて、なのに、何も言えなくって、悔しかった」
「ん。そうだってな」
やっぱり、知ってた。
顔あげられない。
あれだけ大勢の前で言われたんだもん、耳に入っても不思議じゃない。
直紀さんの顔に泥塗ったあの人が許せない・・・。
「何が苦しかった?言ってみな」
「何がって」
「言え」
泣きたくない。だからグッとこらえて。感情を押し殺しているのに、
その蓋を開けようとするのは、なんで?
「別に悔しさを人に巻き散らせと言ってるんじゃない。冷静になって考えてみな。苦しくなるほど、胸に刺さってるの何?」
「私、努力してる。自分で、努力してる」
「ん」
「それから?」
「それを知りもしないで、バカにされた」
「それから?」
「あの人の顔が嫌い」
「それから?」
「私・・頑張って・・る・・・のに」
「それから?」
「コネって言われて・・・。実際、直紀さんのダンス見たくて、親にすがって、ちょっとした繋がりで無理やり上京して、押しかけたのはそうだし」
「それから?」
「だから、コネは使った」
「それから?」
「でも自分で頑張ってレッスンしたんだよ」
「それから?」
「直紀さんは、才能がなければ知り合いだからって使ったりする人じゃない。だからそんなの人に頼んだりも絶対にしないのに」
カクテルグラスをちょっと睨むようにして、泣きそうになる自分をこらえる。
深呼吸。
一口。そう。この美味しい味でなんとか気丈に自分を保つ。暗黒に包まれてしまいそうな自分をギリギリで保つ。
美味しい。桃の味がする。センスのいいマスターなのかもしれない。
「冷静になってっもう一度考えてご覧、今話した中で、一番心に刺さってる事は何?」
え?
今話した中で?
「何度か繰り返してた言葉、何?」
何度も繰り返していた言葉・・・?
はっとする。
死にたい・・・程恥ずかしい。
自分が、褒められてもいい程頑張ってるって、なんども繰り返して、よりによってそれを直紀さんに愚痴ってた。
「あ。あの。あの」
「今の発言は最低でした」
「取り消したい」
・・・
「じゃあ、表現変えてみたら?」
ゆったりとした口調。
責めている訳でもなく、変える?そうかと、やってみようと乗れる提案。
「人がどう見てるか、その評価ばかり気になってました。多分・・そこに、その人の言葉を誘発させたんだと・・・思います」
「恥ずかしいから忘れて欲しいです」
「愚痴でした」
最低。最低だ。私。
周りから、あの中傷に対してそんな事ないよ、
頑張ってるよ。だから私の評価は正当だと言ってもらいたくって、言葉を待ってたんだ。
それなのに、待っていたその言葉さえも受け取れずに勝手に落ち込んでた。
「最低・・・ですよね?」
何にも言わずに、お酒だけ飲んでる。
聞いてないわけじゃない。ただ、側にいてくれる。
彼は、私を批判も、評価も・・・しない。だだ、今の私がどういう状態かみてくれただけ。一緒にその時間を使ってくれた。忙しいのに。
「そのカクテル飲んだら帰るぞ」
「どうして、こんなに大切な事、忘れちゃうんだろう」
「人に相談しないからじゃないのか?」
「し、したもん」
「愚痴だと自分で言ってただろ、そういうのは、相談じゃない」
「相談というのは、自分が人の意見を聞く用意がある時に使う言葉だ」
「はい」
耳が痛い。
「帰ったらお仕置きだからな」
「な、なんで?」
「悪い事してない!」
「そう思うなら、お仕置きは厳しくしないとな」
「帰るぞ」
グラスが空にならないようにチビチビ飲んでたのに。
『まだ残ってる』といいかけて、最後の一口を飲む。
まだ帰りたく無い・・・
「今日はおごる。それと、特別講座は普通は受けられないんだぞ。俺がしたいと思わない限り実施されないんだからな」
「コネがあっても受けられない。覚えとけ」
「ハイ」
んんん。
優しさと、厳しさが同居する人。直紀さんの不思議な魅力。
全てを見ていて、その人が答えを出せる様な空間を用意してくれてる。
カッコ良くて、頼もしくって、人望もあつい体育会系。
私の師匠の直紀さん
どんな事があっても私は尊敬し続けると思うけれど、唯一止めて欲しいのがお仕置き。
なんで。
なんでーーー。
私、話せば分かるし。
もう大人だし。もう18歳になってるし。
「そこに座れ」
やばい。結構マジでお説教な予感。
「はい」
ここは大人しく。
いくら明日がオフだからと言っても、お仕置きが厳しくあって良い訳が無い。
「なんでお仕置きするって言われてるのか、分かるまでそのままだからな」
「えーーー」
「そんな返事を許した覚えは無い」
「はい。すみません。考えます」
「今のは追加分にカウントしておく」
最悪だ。
お仕置きスイッチが完全に入ってるよね?
でも、でも、何にも悪い事してないし、思い当たる事もないし、
ぐるぐると落ち込んでた位で、そんなに目くじら立てる程の事じゃないと思う。
「彩花」
「はい」
「ここに来たばかりの頃に言ってあったよな?ちゃんと相談しろって」
「はい」
「それと、自分の負の態度を表に出すのは一流じゃない」
「はい」
「誰だって、不調な時はある」
「はい」
「だが、一緒に舞台をしているベテランは常に一流の表現者だったんじゃないか?」
「はい」
「知ってるよ。新人には新人の良さがあるが、ベテランの経験値には対抗できない。その経験を今の彩花が補うのならば、
沢山の経験ができる本を読んだり、舞台を見たり、映画を見る事だと話した後に、ちゃんと影でその事を実践していた事」
「え」
こっそり分からないようにやってたのに。努力してますみたいで恥ずかしかったから。
「美学は誰にでもある。努力した事が表現となって現れた時に周りは変化や、成長に気づく」
「中傷した人も、お前の台頭を無意識に感じていたんだろう」
「あの人は・・・」
「あの人の話は、やめておくか?」
「はい」
しょうがないな。負けん気が強いのは良い所だが、勝ち負けでは無いんだけどな。
「褒められる為にやってる訳じゃないな?」
「評価されるため、人から承認されるためにやっている訳じゃないな?」
「はい」
心がズキズキする。居心地が悪い。
自分が恥ずかしいから。
自分の事を淡々と見てくれている人からの言葉を聞くのが恥ずかしい。
「正座」
「はい」
完全掌握されてる・・・。こころが痛いけど、足も痛い。
「相談して、頼るのは迷惑とは違う」
「はい」
「さて、自分を中々受け入れないで、周りに迷惑をかけた分はお仕置きだ」
「め、迷惑?」
「相談しなかった事。勝手に落ち込んで、負のエネルギー出しまくって迷惑かけた事」
そんな事で???とは流石に言わなかったけれど、そこからお仕置きにつながるのがどうしても納得がいかない。
「お仕置きが嫌だったら次からは言いつけ守りなさい」
言いつけだったのも忘れていた。。。したっけそんな約束?
「俺はそんなに甘くないからな」
「不満顔で返事もしない場合、どうなるか思い出そうか」
久々にワンコの百面相だな。
「門限過ぎた分もあるからな」
「ない!それは無い!だって2軒目誘ったのは直紀さんなのに?」
「門限過ぎてもいいのかと確認を何故しない?」
「だって。誘われたんだもん」
「誘われたら誰でも傷心のヒロインはついて行くのか?」
「自分は可愛そうというのを全面に押し出す態度は許さないからな」
「罠だ。そんなの。そんな事でお仕置きされたくない」
「俺のルールだから」
「やだ。やだ。やだ。そんなルールやだ」
「いやでも守らせる。我儘は許さない」
「なんで?中傷受けて傷ついていたのに」
「な。悲劇のヒロインになれば全て許されると思ってるだろ?それがお仕置きだって言ってるんだ」
「敬語忘れてる分、追加な」
追加よりも何よりも
自分の口から
思ってもみなかった事が口から出ていた事に驚いてしまった。
口から出たって事は、思ってる事だって、前に言われた。
本心・・・。それは自分を悲劇のヒロインにして憐れんで、それに酔っていたの?
私本当に最悪。
「わかったら膝に来い」
痺れてるのと、完全に直紀さんの方が格上なのと、自分があまりにちっぽけで、
分かったと思っていた事が全然分かっていなくって
ひよっこ並みだった事に気づいて、ふらふらする。
恥ずかしい。
どこまで見透かされてるんだろう。自分でも無自覚な行動なだけに、なんだかとてつもなく恥ずかしい。
「なんで、直紀さんには私の駄目な所がそんなにわかるの?」
「反省しろ」
そういってさらなる恥ずかしめ。
スカートが捲くられ、パンツが下ろされる。
質問には答えてくれない。
パチン!パチン!とお尻が叩かれる。
恥ずかしさと、泣きごとを言いたく無くて身を固くする。
自分が取った行動が全て恥ずかしくって、我慢した。
我慢していたんだけれど、お尻の下の方ばかり狙われて、段々痛くなる。
「ご、ごめんなさい」
「まず、自分の事を認めて、自分の好きな事を選択する事。わかった?」
「わかりました!」
「わかってないな。まだまだ」
全然膝から下ろされる気配が無い。
ていうか、相当痛くなってきた。我慢・・・できないかも。
痛い。思わず体が動く。こんなの、こんなの我慢してやるって思うのに、
凄く痛い。
膝の上から脱出したいよ。
痛いよ。我慢なんてできないよ。
お尻は、どんどん赤くなってると思う。
逃げ出したい。
今すぐ終わって欲しい。
怖いよ。お仕置きされるの、怖い。
彩花はまだまだ若い。人生の経験が少ないゆえの、彩花の気持ちも分かる。
自分がやっている事が、何かに結び付くのか、何かの花開く時が来るのか。
誰もが自信が無くなる。
そして、周囲からの評価というのは、評価される結果となる時もあるし、ならない時もある。
それは俺が身を持って体験してきた。
努力しろとは言うものの、努力しているから良いという訳でもない。ステージに上がれるのは
ほんの一握り。そのチャンスをつかむマニュアルなんて無い。
どんなに自分で最高の出来だと思っても、評価が芳しく無くて落ち込む事がある。
ただ、それが自分が選択した「好き」が活かされてるかどうかで次のエネルギーにつながる。
誰にでも失敗はある。
失敗に対しての変化し、成長しようとする柔軟性があるか。
人を妬んで努力を忘れたりしていないか。
突然やってきた評価に、自分で納得いく努力がつづけられるか。
自分がその時に持てる力を全力で注ぎ込んでいるか。
一流と言われる人はそれぞれに、それぞれのスタイルを持っている。
だから彩花には、彩花のスタイルがあっていい。
理不尽に思うお仕置きという形でしか教えられないのは俺の不器用さゆえだが、
忘れて欲しくない。
自分の才能を活かす事への情熱を。
俺の所に来る時に使ったのは、コネだったかもしれないが、彩花自身に熱意が見えなければさっさと追い出していた。
情熱がなければ、目をかけたりしない。
本人のやる気がなければ、適当にあしらうだけだ。
全ては自分のやる気が人を巻き込む力となる事を覚えて欲しい。体感した事を忘れないで大切にして欲しい。
だから、お仕置きは厳しくする。
酒を飲みたい気分なのは分かる。駄目だと言われても飲みたければ飲んだらいい。それはお前の判断だから。
俺は俺のルールを守らなかった代償を払う覚悟で飲んだのかを確認しているだけだ。
「お尻痛いな?」
「い、痛いですーー」
「うあーーーん。痛い」
「代償覚悟で飲むなら飲めばいい」
「やだー。お仕置きされたくないー」
「それはお前の選択だからな。好きな事を選択するのは悪いことじゃない」
「ただ、俺が納得した理由じゃなかったらお仕置きはする。」
「お酒を許した訳じゃないし、約束守れない子にはその事を分からせるためにお仕置きはする」
「彩花が傷ついて可愛そうだから飲む事を許した訳じゃない。お前が選択した事をあの場で俺は尊重しただけだ」
「その時、そう言ってくれたら分かったのに」
「そうか?」
「人の話聞くキャパシティーは無かっただろ?」
あまりに的確すぎる指摘。
「ウーロン茶にしたらしたで、俺のせいにしてずっと非難したかもしれないしな」
もっともだ。
どこまで人間観察できてるの?直紀さん。すごい・・・。
「ごめんなさい。我儘してごめんなさいー」
もう完全白旗。お尻も叩かれる度に逃げてしまう。
「さて、追加分するか。その前にお尻冷やそうな」
鬼。
鬼だ。ごめんなさいして、降伏したのに、追加分を忘れないなんて。
「痛い」「痛いよう」「ヒリヒリする」「お尻熱持ってる」
「だから?」
「まさか反省してないわけじゃないだろうね?」
「してます」
「不満が口から出る理由がわからないな。お尻に聞いた方がよさそうだ」
ぞ。
「反省してる。してます。い、今のは、痛かった事実が口からでちゃっただけです」
「反抗心がある訳だ。わかった」
「違う。違います。反抗心無いです。猛烈に反省してます。本当です。ホントに本当です」
「あまり本当を連発すると、むしろ白々しいが、まあ、態度みて判断する」
げ。
まずい。
いつまでたっても終われない。今日何でこんなに厳しくなっちゃんただろう。
「自分で捲いた種だって事わかってるかー」
ぎく。
「彩花の『ごめんなさい』はあまり聞いてないな」
「今からお仕置き中の態度忘れない様に、しっかりもう一度躾けてやる」
「やー。やだ。やだ」
「反抗は許さない」
「ごめんなさい」
墓穴。
それからは、ごめんなさいを何度も言わされ、お説教されながらお尻を叩かれた。
痛すぎて、脳内真っ白になってると、言われた事繰り返すように言われ、聞いて無かったと言われてさらに追加。
本気で躾けなおししようとしている・・・。
直紀さんの家に居候するのであれば、約束事は絶対に破ってはいけなかったんだ。
それを破ったら、お仕置きされるんだった。
そんな事分かっていたのに、なんとかごまかして逃げる事ばかり考えていた。
ちゃんと反省してないのなら膝から下ろしてもらえるわけが無い。
さっきの白旗はちょこっとシロハタをあげたふり。自分でもわかっていなかった。
早く終わって欲しくて、ゴメンナサイという言葉を口先で唱えていた。許してもらえると思っていた。
でも、見抜かれていた。
心底、ゴメンナサイと色々と心の中の葛藤が終わって、漸く許された。
言われた事も、自分がやると言った事も守らなくてはいけないんだった、
痛すぎて、お尻がビリビリしてて、お尻が熱持っていて、最悪で、
半べそになっても、でも『お尻が痛くて、ひりひりして、熱を持っている』だなんてことを口にする事は無かった。
これが完全に躾けられたという事なのかもしれない。
「反省しました」
「部屋でもちゃんと反省しろ」
そういってようやく膝から降りてもいいと。終わりだと許可が出た。
優しさの中に、いろんな鬼なりの罠が仕掛けられていて、私は罠にはまりまくった夜だった。
でも、
でも
私の心の中にしみていたどす黒い悲しみと、不満と、怒りはどこかへ行っていた。
綺麗さっぱりと。
すごい。
自分で自分の事を直紀さんと一緒に冷静に(?)見ていったら、
周りに振り回されていた事は、客観的に一つの事実として見る事ができるようになっていた。
一つの事象になっていた。
もう、あの嫌な思いだけを、何度も心の中で繰り返す事は無いと思う。
もし引きずったりしたら、直紀さんにまた一発で見破られると思う。
それこそ、何をやっているんだ?っていう話しだよ。
こんなに時間を使って教えてくれた直紀さんに申し訳ない。
だから、私は自分を大切にする。
そして、自分の大切な師匠の評価を気にするのではなく、技術の足りない所は気持ちでくらいついて行く位のやる気で臨もう。
決意を口にするほど野暮じゃない。
私って、相当頑固だよね。あんなに痛い思いしないと分からないなんて。やっぱり自分がメンドクサイ。
そして直紀さんはどこまでも偉大。
~蓮の花~