道25
2018/6/24
やっとお仕置きも終わって
ずっとこのまま冷やしていたい冷たいタオルも、いい加減お尻からどけて
のっそりと、ソファーから離れる。
なんとなく、
もう少しだけ直紀さんのそばに居たかったから。
冷蔵庫から出てきたお茶を
少し離れた台所のテーブルで飲みながら
ソファーで本を再び読み始めた直紀さんを観察。
お尻は痛かったけど
直紀さんに呆れられたのではないかという不安からすぐに部屋に逃げ込む気になれなかった。
こってりと絞られた。
それなのに、自分の中で迷いが消えない。
「悩むなんて時間の無駄だったのかな?」
直紀さんにどう思われてるのか、不安で仕方がない。
気持ちがわさわさしたまま、言葉がふと出てた。
「ん?」
「だって、直紀さんにはわかってたんでしょ?私がオーディション受けるの尻込みしてるのは怖がってるからだって」
「立ち飲みとは行儀が悪いな」
座ると痛いから、立ってるのに。
お仕置きの後だからもう少し優しい言葉かけてくれたっていいのに。
「だって座ったらまた、お尻痛いんだよ」
「知ってる」
「座って飲みなさい」
オニーーーー!!
ちらってみたら、目が合った。
怖いよー。
しぶしぶ、そっと椅子に腰を下ろす。
そっと座ったのにズキってする。
「俺が決めることじゃないからな」
「ぐずぐずしてるって事に飽きたという体感ないとここから脱出しようと思わないんじゃないか?」
「そうかもしれないけど」
「なかなかオーディション受けずにいる私を直紀さんがすぐに叱ってくれたら、こんなにもんもんとしなかったのかな」
「人のせいか?」
「そ、そういうわけじゃない。ただ自分がふがいないだけ・・・」
「まあ、悩んでしか成長できないものだしな」
「そんなの、やだ。もっと、悩んだりしないで、楽しく生きたい」
「無駄に落ち込む必要はないが、悩む時間が必要な時はある」
やれやれ、ふくれっ面だな・・・。
「自己嫌悪で気分悪い」
「悩む事は別に悪い事じゃない。悩んでる事に対して自己認識しないで何かのせいにしたり。回りに迷惑をかけるのは別だが」
「直紀さんが見てすぐわかる位なら、深く落ち込む前に教えてくれたらいいのに」
「あああーーー。またオーディションに応募するの怖くなってきた」
「彩花?」
しまった…
「自分が発してる言葉、本気で言ってるのか、かまってもらいたくて、いってるのかどっちかわかってるか?」
あ。まずい。まずかった。
今の、ピリッとした口調だった。
「責任転嫁するなという説教したばかりだが?」
「そいう言うつもりで言ったんじゃ・・・」
「なんだ?言い訳か?口答えか?」
「・・・」
「人のせいにするのか?」
「しません」
あ。なんで涙声なの私?
畳みかけるようにいわれて、心折れる。
「お説教だけにしてやったのに、反抗的な態度取り続けて構ってもらおうとするなら膝の上だな」
「い、嫌。だって、お仕置きは今終わったばっかり。やだ。膝の上は、嫌。ごめなさい。やだ。しないで」
別に『かまってちゃん』になってるつもり無いよ。ただ、分かっていたのならもっと早く言って欲しかっただけなのに。
どうしたらいいか、言ってほしい。
だけど、それは、言わないってきっぱり言われちゃった。
もちろん、私のためだってことわかる。
頭では理解してるよ。
だけど、優しくされたい。
気持ちが弱ってるから。
見ててほしい。
辛い時に、手を差し伸べて欲しい。
「舞台に立ちたいのなら、オーディションが怖いのは自分で克服しろ」
「舞台に立つ気はないのなら、そのことだけがお前の人生の中にある選択肢じゃない。
若いんだし、色々試したらいい」
いやだ。
いやだそんなの。
できないよ。
「俺はお前を甘やかすような事はしない」
「態度次第で、むしろ泣かせるような事になるかもしれないな?」
「お仕置きは嫌なの。本当に嫌なの」
「ちゃんと責任取ると自分から約束したんだろ。説教した後で、自分で宣言した約束だったよな?」
自分でした約束って2回いったよね。
耳が痛い。
「お仕置きしないとちゃんと約束守れないなんて、子供みたいだな」
意地悪。
子供じゃない。
言葉で理解できてるのに。
「やるやる詐欺か?」
「詐欺は犯罪だなー?彩花?」
ぐっ。
いたぶられてる。絶対にそうだ。
「そんな悪い事する子には厳しくお仕置きしないとな」
「それは、違うの。お仕置きはもういらないです。だってもう無理」
「さっきさんざん厳しくされたんだもん。無理だよ」
「さっきのは門限の分。理由が違う」
「それに、『無理』という言葉は使うな。限界作るのがクセになってるみたいだからな」
「無理だと、頭で判断する事柄なんてどうでもいい」
や、やだ。
お仕置きいらないって言ってるのに。
結局、何言ってもお仕置きになりそうで
嫌すぎて吐きそう。
お仕置きなんて希望してないし!
「お前は『無理』という言葉禁止な。やる前からなんでも無理だというのがそもそもの課題だ」
「膝に来なさい」
うわーん。
ソファー。遠いいよーーー。
「返事!」
「お仕置きは嫌なの。本当に無理。あ。無理っていうのは、今はさっきのその。あの。
お尻叩かれたのがまだ痛いし。しないで。しないで。ごめんなさい。直紀さんごめんなさい」
机に突っ伏して必死のお願い。
顔見れないよ。
「私めんどくさいよね」
「手はかかる」
「彩花が一生懸命ならば、見放したりしない。だから覚悟しとけ」
さらっとキュン死するような事を平気で言ったよこの人。
気休めの言葉はくれないし、私を甘やかす言葉もくれない。
それなのに、どこかで、私を救ってくれる。
直紀さんに救われる。
「俺は人それぞれの考え方を尊重しているだけだ」
声が頭の上でする。口調は穏やか。
いつの間に近くに来てたの?
ふと顔を上げると、直紀さんがそこに立ってた。
優しく左手首をつかまれて、そのままソファーの方へ連れていかれる。
決して強く引かれている訳じゃないのに、あがらえない。
ふぇ。お仕置きだ・・・。
彩花の心理状態は、程度の差こそあれ誰でも通ってきた道だから、
無理にオーディションに行かせる話でもないと思っている。
本人にその意思が無ければ、事は動かない。
周りが優しく応援するのも、過去の自分と照らし合わせて、昔の自分を見ているようだからなんだよな。
そういう事は、恐怖を乗り越えた人だけにしかわからない仕組みになってる。だから、乗り越える前の人間が
もがくのは仕方が無い。
乗り越えた後だって、誰だってオーディションを思うと緊張はするものだしな。
俺としては、そう思ってるから、今回の件については仕置きするほどの事ではないとも思ったが、
甘やかしてると、いつまでぐずぐず繰り返すだけなら、
今日は乗りかかった船だ。まあ、厳しくするかと考えを変えただけだ。
「お仕置きと決まったら、厳しくする」
「乗れ」
膝に乗せられて、お尻痛いのに、デリカシーゼロだから
パンツが降ろされる時、布越しに、さっき痛くされた所をぐっと押されて、ビクってなる。
もっと優しく扱ってよーーー!
「ごめんなさい」
痛かったので、叩かれるのが怖くて思わず先に謝ってしまう。
何も始まってないのに。
「何を言ってももう遅い」
「だいたい、なんで『ごめんなさい』なんだ?言ってみろ」
うっ。お仕置きの恐怖で条件反射で口から出ちゃっただけ・・・。
もう、よく見てるっていうか、そういうの拾わないで欲しい。
痛くされたくなくて予防のように、ある意味呪文のように・・・口からでてた。
「言えないよな?」
「悪いと思ってない条件反射の言葉はすぐわかる」
ちょっとした事も見逃さないんだよ。この人は。
「はじめるぞ」
やだやだやだ。
「ひぃ!!!」
「いたーーい。それ痛い。やだ。無理」
「『無理』は禁止」
「返事は?」
・・・
「痛くて返事できない」
言わないからね。返事なんかしないんだから。手を止めてくれないなら言わない!!
パチン パチンと痛いのが続く。
意地悪。手を止めてくれたっていいのに。
「返事ができないのなら、できるまで膝から降ろさないからな」
「いくつ追加されたい?」
「やだやだ。追加やだ。追加しないで。お願い」
パチン パチン パチン パチン
一定速度で振り下ろされる。
わかってる。
意地はってるのは自分だってこと。
意固地になって、頑固になって、
仕方ないの。悪くないのと自分の変えられない言い訳にしがみついてるのは、自分だってこと。
痛い。
ごめんなさいを言わななきゃ。
あーー
「ごめんなさい。返事ちゃんとするから。反抗的な態度取ってた。ごめんなさい。だからしないで」
猛烈に痛すぎて、結局すぐに降参。
今日はすでにお仕置き散々された後だから、本当にきつい。
もがいて膝から降りようとしても、全然逃げられない。
お尻冷やして、最初のお仕置きから
間が空いた分、余計に痛い気がする。
そんなには強く叩かれてないと思うけど、すでに痛い所に叩かれるのは超絶痛い。
「みんなに迷惑かけた。ごめんなさい。直紀さんにも、美穂さにもごめんなさい」
「怖かったのー。オーディションで手ごたえが無いまま、ただ落ちるのが、怖くて迷って、またそうなるかもって思ったら、
何も手につかなかったんだもん」
「外に求めても、解決にならない。自分がいつものように、できる事をやるだけだ」
「受かる受からないは、たまたま縁があるかどうかという事もあるしな。受かる理由が分かったら誰も苦労しないさ」
「お、お尻叩きしながらじゃなくて言って欲しいよー」
「痛すぎて大事な事覚えてられないーー」
「きーー。無理、無理」
「まあ、無理って言ってるうちは終わらないな」
ぞっ。
今日のNGワード設定はきつい!
そして多分今の「無理って言ったら終わらない」発言本気だ。
「ごめんなさい。言わない。出来る事から始める。改心した。今した。本当だからーーー」
「ひぃっ。だから、だからいたーーーい」
「直紀さん、反省しました」
手は止まらないし、痛いしでもがいて腕の中から脱出しようとするのに、びくとも動かない。
やだーーー。もう。膝から降りたいよーー。
「何を反省してるのか、俺にはあまり伝わってこないが、10回我慢しろ。それで終わりだ」
ああ!やっと終わりの兆し!!
ほっとしたけど、いつもの痛いやつに違いないと身構える。
案の定!!!目から星が。
「いったーーーーーーい」
「やああ。10回無理ーー」
「あ。今の無理っていうのは、クセでいっちゃっただけで・・・」
「追加な」
訂正の言葉全部言い終わらない内に、かぶせるように『追加な』ってどんだけオニなの?
そんなやり取りがあって、本当に撃沈した。
しっかり追加されて、痛いとどんなに暴れて、叫んでも、がっちりと腕で抑えられてて
しかも、そこ痛い!!!と飛び跳ねるレベルで痛かった所をもう一度叩いたりするんだよ。
どこを叩かれても痛いのは痛いけど、とびっきり痛かったところ、連続でするって、
ドS。言葉でもぐいぐい追い詰められ、お尻の痛さもこれでもかと痛くされる。
「自分の事は自分で決めろ」
「できるまで見逃したりしないからな。覚悟しとけ」
あ。ちょっとキュンとと来た。
「はい」
見放さないって言われたのがうれしかった。
ふっ。ようやく即答したか。
ここら辺で終わるかな。相当堪えたみたいだしな。
「美穂にもちゃんと謝っておけよ」
「はい。美穂さんはいつも私を助けてくれてて、優しいです」
「それは俺への当てつけか?」
そうだよ。美穂さんの優しが直紀さんにあったら、こんなに不安にならないのに。
「お前が駄目になるような言葉をかけるつもりは無い」
はいはい。もう聞き飽きた。そのセリフ。
「自分に自信が持てたら、俺の言う言葉もいつかわかるさ」
「子ども扱い」
「そうだな。子供へのお仕置きにしては厳しかったな。これで終わり」
ピシッと最後に叩かれて、膝から降ろされた。
「終わりって、面倒見ないってこと?」
「今日のお仕置きが終わりってことだ。相当、堪えてるのか?」
「いいか、若いからオーディションだけが人生のように思えるかもしれないが、視野を広げられるのなら、広げてみろ」
「今の時代、選択肢はたくさん持っていたらいいと思うぞ」
「舞台に立つこと。これしかないって今は思ってる」
「それもわかるけどな。他の事についてもわかろうとしてみろ」
「それと、これは命令じゃない。やってみて合わない事はしなくていい。単なるアドバイスだ」
「ただ、人に相談をもちかけたのなら、その人のアドバイスにも一応耳を傾けてみたらいいのかもな」
「よし、終わり。今日はお尻良く冷やしておけ」
「はーーーーい」
「返事は短く」
「はい」
言われなくったって、お尻は冷やすよ。だってだって、
まじで痛いんだもん。
無理ってNGワードだったのもつらかったし、
どれくらいお仕置きされるのか
分からなかったのも怖かったし、
何より、めちゃめちゃ痛かった。
「彩花、お仕置きされた理由と反省した点、後でメモにして見せろ」
「はい」
覚えてるかな・・・。私。
泣き叫んだから、喉がちょとかすれる。
「できてなくてもお仕置きはしないが、正座で聞くお説教は長くなると思え」
次はまさか、精神的に厳しくされるの?まさかね。まさかだよね。
心臓もたないよー。しかも正座したら足が当たって、またお尻痛いやつ・・・。
今日はとことん厳しめ。
「ちゃんと、何が悪かったか反省できてるか、確認する」
「はい」
やだなー。落ちこぼれの補習授業みたい。
ソファーに寝そべって、タオルをお尻に乗せて考える。
他にダンス教えてる先生の所に行ってたら・・・。
こんなに厳しくされない環境だって、探せばあるはず。
他の所でレッスン受けたって、オーディションなら受けられる。
それなのに、頼りにしてしまうのは直紀さん。
ここに居たいと思ってる。
広い視野を持てと言われても、
今の私は、直紀さんの所で学びたい。。
直紀さんの考えに触れたり、
直紀さんの踊りに触れたり。
日常が常に刺激で満ち溢れてるんだよね。
美穂さんはじめ、みんな優しくしてくれるし。
それだけの事だよね。
オーディションは一つの結果だけど、
直紀さんが言うように、今頑張れる事しないで、
恐怖におびえてる場合じゃない。
頭で考える前に、動けって言われた。
考えたって、答えは分からないんだから。行動したその先にしか現実は動かないって言われて。
確かにそうだよね。
オーディション受けない選択の背後にどんな理由があったとしても、ドアをノックもしてないのだから
ドアは開かないよね。
当たり前なのに。
当たり前なのに、辛くて、『頑張ってるね』と言われたかっただけなのかも。
褒めてもらいたかった。
成長している自分を。
そんなのまるっとお見通しだったんだよね。直紀さん。
だから、無理に膝にのせたり最初はしないで、私が気が付くように時間くれたのに、
私がアホすぎて、考えようともしないから見かねて強硬手段だったのかな。
どうなんだろう。
理由はなんであれ、頑張ろうって今は思ってる。だからいいや。
もう、考えるのはやめて、思うがままに行動まずしてみる。
「オーディションの申し込みはするから」
「そっか」
「うん」
「頑張れ」
「うん」
たった一言、『頑張れ』と言われた事で見放されたわけじゃないってやっとわかった。
今日ずっと言葉を尽くしてくれてた。私が理解できるように。お仕置きの合間に一生懸命に伝えてくれた。
「やっと人の言葉に耳傾ける気になったのか?本当に手がかかるな」
あ。見透かされたようなタイミングでのお言葉。
「なんで直紀さんにはなんでもわかるの?」
「わかってる訳じゃないと思う。たまたまだ」
お説教に泣いて、
お尻は恐ろしく痛くて泣けて、
何故なんでも分かるのかというのは秘密で、教えてくれなかったけれど、
私の心がいつの間にか軽くなってた。
「今日直紀さんが言ってくれたこと、理解できるように、まずは出来る事やってみる」
「言っとくが、あまり宣言してやるやる詐欺にならないようにな」
ぐっ。
「意地悪」
「せっかくやる気になってるのに」
「できるところから、手近な所からちょっとづつやればいい」
「いきなりゴール達成を目指すな」
「はい」
お尻冷やすために
ソファーにうつ伏せだったから、
こっそり腕の合間から直紀さんの表情みてみたら、
すごく、すごく、優しい瞳だった。
いつも、いつも、真っ正直で、本当の事だけを言ってくれる。
オーバーでもなく、悲観を込めたりもしないで、
そこにあるのは事実だけ。
経験値に基づいた、自信。
やった分だけ自分の自信になる。
確かそういわれた。
だからやらなかったら自信もつかないって。
当たり前の事っって、それが大切だって。
人は、派手な事に目がいって、当たり前の事をおろそかにしがちなんだって。
今はコツコツと頑張るしかないのかー。
はあ。それにしても、お仕置き厳しすぎ。
痛み、明日は引いてもらわないとやばい。
もし直紀さんのレッスン中に叱られるような事があったら・・・絶対に惨劇になる・・・。
お仕置されたところが痛くてなんて言い訳したら、お仕置きされるような事をするのが
悪いって言われるに決まってる。
直紀さんは怖いけど、本当はね、すごく優しいところがある人。それが分かるからたくさんの人から信頼されてる。私もふくめ、みんなが頼りにしてる人。
「いつまで冷やしてるんだ?さっさと書いて持ってこい」
もとい。やっぱり根っからのオニ
~蓮の花~