道22

2017/9/9


尊敬する師匠である直紀さんは、いつもいつも、私のはるか先を行っていて、
たかだか数年選手の私が追いつけるはずもないのだけれど、

だけれども、いつまでも『ひよっこ』でいられるわけもないと思ってる。

舞台は数えるほどだけど経験した。

 

直紀さんから学びたい。直紀さんの振り付けで舞台に立ちたいという夢も叶った。

 

さあ、私が目標としてきた世界で、私はこの世界でどう生きていくのだろう。

この世の中は、才能のある人であふれているんだもん。

私が掴めるチャンスはどれくらいあるのだろう。

 

私は、田舎に帰るの?

それはいつ?

 

未来に思い描く姿が見えない。こんなことでいいのかな。

彼氏もいないし

でも、年齢だけは確実に重ねてきてる。

 

これから、20歳になって、そして、お酒も飲めるようになったら?


どんどん許されることが多くなっていった時、
私は直紀さんに頼る理由を一つ、また一つと失うのかもしれない。

 

踊るのが大好きで、体で表現したいタイプなのに、

頭でぐるぐる考えてしまうというのは、クセなのかな。

考えずにはいられないよ。

 

能天気でいられたら、苦しみや、悲しみや、ストレスや、不安はもっと軽い感じで自分の中を通り過ぎていくのかもしれない。

 

 

 

 

「彩花ちゃんは、直紀の所へ来たばかりのときは、見たい。体験したい。という情熱で猪突猛進の頑張りだったから」

 

「次を考えるのは自然な事だと思うよ」

「美穂さん、ありがとう」

「話聞いてくれて」

 

「美穂さんはいつも私の話聞いてくれる」

 

「彩花ちゃん、本当に話しをして、相談したい人いるの自分でもわかってるでしょ?」

くすっと笑って美穂さんがそう言った。

「否定されようと、肯定されようと、自分が考えていることについて、意見をぶつける相手、ちゃんとまだたくさんいるでしょ」

「たくさんいる中でも、特に一人、彩花ちゃんが話したい人いるの、私でもわかっちゃうけどね」

 

「・・直紀・・・さん・・のこと?」

 

「だって、何か言って、叱られたりするのが怖いんです」

 

「バカって言われたらどうしようって・・・。そんな子供扱いされたらどうしようって・・・」

 

「認めてほしいものね。直紀には。彩花ちゃんガンバレ!私はいつでも応援してるよ」

 

 

 

 

そうか、私認めてほしいのか。

 

それって、直紀さんが一番怒るやつ・・・。人からの評価気にしてばかりいるんだ。私。

 

よかった美穂さんに相談して。大丈夫。私頑張れる!

 

直紀さんに相談しなくてよかった。雷が落ちてたかも。

 

雷だけならまだしも、

話し方によっては、もしからしら膝の上に・・・という展開にだってなりかねなかった。

 

「美穂さんありがとう!」

 

「元気でちゃった。お肉もモリモリ食べたし、もう大丈夫!」

 

彩花ちゃん・・・。言わない気かな? 直紀に。

 

人肌脱ぐかなーー。

 

本当に一生懸命でかわいい。

直紀ももう少し、甘やかしたらいいのに。

よく見ている割には、突き放した態度とるんだよね。あいつ。

 

本人が言ってくるまでは手を差し伸べたりしないタイプだからなー

 

「またご飯、いつでも誘ってね。彩花ちゃんならいつでもウエルカムだから」

 

「うん」

 

気持ちがほぐれて、いくぶんか、穏やかな気持ちになって家に帰った。

 

直紀さんは今、遠征中。

週末をからめた公演の為に地方に数日行ってまた戻ってくるのがこの数か月続くらしい。

忙しい直紀さんだもの。

少し落ち着いてまたグルグルと考えちゃうようなことがあったら話せばいいかな。

 

 

 

 

 

美穂さんに相談してから数週間して、切羽詰まってきた。

直紀さんにやっぱり、話てみよう。

そう思うのに、いざ顔を見ると、、どう切り出しいていいのかわからず仕舞い。

 

出たかった演目のオーディションにはで落ちてしまい、

なんだか八方塞がりな気持ちでレッスンに参加していたら、失敗ばかり。

 

「彩花!集中力が欠けてる!」

 

「彩花、そこ違う。もう一度」

 

上手くできなくて、イライラして、そして、そして、

 

「後ろで座って見てろ」

 

と言われてしまった。

 

情けない。

 

見ているようにと言われて、悔しくて、情けなくて、でも直紀さんのステップはじっと見て学ぼうと

必死になって目で追っていた。

 

ちょっと踊ってる皆の姿がにじんで見えて、それもまた自分が情けなくて、しきりに瞬きして、

涙があふれそうになるのをこらえた。

 

終わった後すぐにそばに行って「申し訳ありませんでした」とお詫びした。

 

「説教は家に帰ってからする」

 

説教・・・とセットになってるものは流石にみんなの前では口にしないデリカシーは持ち合わせているようですが、

なんだか、泣きっ面に蜂とはこのこと。

 

何もかもがうまく行かなくて、実際自分にイライラする。

 

 

 

 

 

「そこに座れ」

 

ご飯食べた後、片付けして、落ち着かない気持ちでずっといた私に、その時間がついに来た。

 

「はい」

 

「自分が悪いのはわかってるようだが、隠してることあるなら、お仕置き始める前に全部喋っておいた方がいいぞ」

 

「ないです。悪い事してないです」(ただ、なにもかもが上手くいかないだけ)

 

膝に置いた手に力が入る。

「私、ずっと頑張ってきてたもん。なのに、なのに上手くいかなくて、オーディションも落ちたし、先行きどうしていいのかわからなくなって、

体も思うように動かなくて、カウントも取れなくなって、混乱してて」

 

「んー」

 

「わかった。とりあえず正座しろといったものの、一回その椅子に座れ

 

「え?」

 

「お仕置きはするからな」

 

げ。見抜かれてる・・・。

 

「久々に思い出すな。その喜怒哀楽のわかりやすさ。来たときのワンコの様子そのままだな」

 

「ひどい!私もう、ひよっこじゃ無いです」

 

「そうだな。だから将来のこと、考えるんだろうな」

 

「自分が最初に来たときに見ていた、将来像を修正して、バージョンアップさせる時期が来ているんじゃないのか?」

 

「え?バージョンアップ?」

 

「例えば、ずっと憧れていたダンサーがいるとする。そのうち、自分も踊ってみたいと思うのかもしれないし、

その姿を生で見たいと思うのかもしれない。そこで想いが叶って次の興味に移る人もいるだろうし、自分が踊りたいと思うように

なる人もいるかもしれない。踊りたいと思うようになって、誰から習いたいのかと考えるのかもしれないし、どう表現しようか?

と自分の内側に常に問う人生に発展するのかもしれない」

 

「彩花はどうしたい?」

 

「・・・」

 

「評価はもちろん大事だ。仕事としてやる上で相手が何を求めていて、それをくみ取って自分ならどう表現するかを

考える力も必要だ」

 

「自分が全力で、相手のニーズをとらえて、自分がそのとき持っている全力を出し切っているか?」

 

「そこに自分で解決できないことがあるのなら、誰かに相談しても俺はいいと思うけどな」

 

「はい」

 

「イライラして、世の中に噛みついた所で、悪循環になるだけだ」

 

「か、噛みついてはいないです」

 

「反抗期は終わってたのか?じゃあ、そういう事にしておこう」

 

「もうひよっこじゃないのなら、自分が人からどう吸収するのか、そういうことについても考えてみるといい」

 

「俺がすべて面倒を見る時期が終わっていて、寂しいだろうけど、相談にはいつでも乗る」

 

ズバッといわれて、逃げ場が無い。

 

恥ずかしい。

 

寂しかった。私はずっと、ずっと

直紀さんに会う前から誰か頼れる人を求めていた。

 

いつも1人でいつも自分で解決していた。

だから、だから相談したかった。

なのに、人に相談ってしなれていないから、

戸惑うばかりたかった。

 

でも、直紀さんは自分で、自分の意志で立って、歩いて行くようにと巣立ちするようにと、

私に対して接してくるから、それが嫌だった。

 

せっかく見ていてくれる人ができたのに。

それが嫌だった。すべてはそこからだった。

 

「いつまでも保護者のように見ている関係じゃないけれど、いちアーティストとして関われる事はあると思っている」

 

「吸収してきたたくさんのことを自分で創造して表現する時期に来てるってことだ」

 

・・・よくわからない

 

「孤独が嫌いだもんな、彩花は」

 

げっ

またまた心臓に矢を突きさす直球。

 

「嫌いです」

 

やけくそで、返事した。

反射的にカッとなったのかもしれない。

 

「でも、人気商売は、孤独なものだ。いや、どんな仕事でも孤独なのかもしれない。だから自分の好きな視点を持って

自分が自分自身を認められないと、辛くなるのかもしれないな」

 

「ん。喋りすぎた」

 

「膝においで」

 

「え。急・・・」

 

「急だな。確かに。だがもう遅くなってきたし、お仕置きはみっちりやらないといけないと思っていたし、

残念だが時間的に別の意味でたっぷり泣かないといけないだろ?」

 

にっこり笑うなんて。

 

悪魔の微笑み。

 

イケメンだから許される訳でもないと思う。

 

ひどい。

ひどいよ。お仕置きするなんて。

 

もう、グサグサハートに刺さっていて 心が疲弊しきってるのに。

 

「彩花?返事は?」

 

「は・・・い・」

 

「よし、じゃあ、膝においで」

 

 

今まで、何度叩かれたかわからないけれど

毎回思う。『お仕置きって、こんなに痛かったんだっけ?』のオンパレード

 

 

「直紀さん、痛い。痛い。痛い。ごめんなさい」

 

そういったのに、全然返事してくれない

 

「俺が言ったことをちゃんと実行すると約束できるようになるまで、終わらないぞ」

 

どういう意味だか最初は全然わからなかったけれど、

何度も痛くされて、何度もお説教。言われてやっとわかった。

悩んでるのなら、隠さずに相談しなさいってことだった。

 

 

「俺が言ったことに対して、どう受け止めたか、明日までに文章出すこと」

 

「えーーー」

 

「膝から降りたければ、なんて答えるのがいいのかわかるよな?」

 

ペチペチ叩かれてのお言葉・・・。怖すぎる。

お尻の痛さが続くのは耐えられず、不本意がなら『はい』と約束。

文章書くの苦手なのに。

 

「人は変えられないけれど、彩花自身が変われば、周りも接する態度が変わってくるだろ」

 

「彩花は成長してる。その成長を自ら引き戻してダダこねてるのは、お前の美学に合うのかどうか考えてみろ」

 

今日の直紀さんは厳しい。

直球でこれでもかと、痛いところを言葉でついてくる。(もちろん、合わせてお尻も相当痛い)

かわしたいのに、そこを見たくないと思っているのに。

できれば向き合いたくない事なのに。

 

なのに、それをちゃんと見て、ちゃんと自分が判断しなさいという

 

ひよっこじゃない。なんて粋がっていた。

粋がっている事も含め、それでも今何が必要かを真剣に向き合って、話をしてくれているのが分かった。

 

分かった時に、私の呼吸は深くなり、

イライラしていた自分に対して、ごめんなさいと言えた。

 

「反省文書くなら、お尻冷やす時間ないなー?」

 

「いじわる」

 

「冷やすもん。痛いもん。すごく痛かったもん」

 

 

「雑なものだしたら、明日また膝の上だからな」

 

「レッスンいい加減な態度で受けて今お尻がそれだけ痛いんだから、俺が脅しで言ってるんじゃないのはわかるな?」

 

そういって、直紀さんは私をリビングにおいて、部屋に行ってしまった。

もう流石に、体力残っていないよ。私。

 

泣き叫んで、暴れて、それでも何度もお尻叩かれて本当に疲れた。

 

痛さに逆ギレしたけど、そんな手が直紀さんに通じるわけ無く、本気でごめんなさいと反省するまで、厳しくお尻叩かれた。

しかも、下の方を重点的に...。とことん厳しくされて

疲れているうえに、いつも以上に心臓に言葉がグサグサと刺さって、精神的に相当きついお説教だったし。

 

マジで怖い。

なのに、

逃げ出さないのはなんでだろう。

どうして、尊敬する気持ちが減らないのだろう。

 

減るどころかむしろ、増してる・・・。

 

まだまだ傍にいて、学びたいと思ってる。

 

そうだ。家追い出されないように、親のコネを最大限に使わなきゃ。

お母さんに久しぶりに連絡しよう。

ふとそんな事を閃いて、笑ってしまう。

 

ああ。そうだ。

私は、目的に応じて、ちゃんと自分がしたいことを表現する相手がたくさんいたんだった。

 

私は人に恵まれてる。

昔の弱かった私は、やりたい事が見つかって、信頼する人に出会って、少し図太さがでてきたのかもしれない。

 

なんだ、私、意外にたくましいのかも?

 

***

 

美穂からは話を聞いていたが、彩花が自分で言い出すまで放っておいた。

誰かが察して手を差し伸べる時期は過ぎたと思う。

 

自分で、自分の道を切り開いていく段階に来たのなら、

自分で、持っているネットワークの中から助けを求める姿勢が必要になっていく時期だと思うから。

 

そこにはヒエラレルキーはないと思っている。

美穂に相談するように、俺に対してでも、相談するときは友へ相談するように相談すればいい。

誰かが上で、誰かが下ということはない。

持てるものをお互い循環する関係だということしか、そこにはないと思っている。

 

年齢や、経験さから来る上下関係は尊敬する相手であれば、そこに敬う丁寧な気持ちで違いがあるわけじゃない。

教えを乞う姿勢は自分が頂点に立っても持ち続けたいと思う。

何から学ぶか、何を面白がるかが自分の人生の深みを増すのではないかと思う。

 

***