アオ6

2015/03/06

「もう、もう、酷い痛さなの」

 

「ジンジン、ズキズキっていうの?やだよこれー」


「うん。わかるよー」

「で、すごく厳しいの」

「そうそう」

「嫌すぎて、素直になれないの」

「ほら、言ったでしょ」

「怖かったよー」

「だから止めたのに。『お仕置き中、私なら素直になれる。叱られたい』とか言って無茶するから」

「でも『終わり』って言われて、あたま、ポンポンってされたら、なんかキュンとしたー」


クスクス。

「ふーちゃん、お兄ちゃんの事、まだ好きなの?」

なんか一途でふーちゃん可愛い

「こんなに、お尻赤くされてるから、もうお兄ちゃんの事、嫌いになるかと思った」

「お仕置きは、怖かったし、もう絶対嫌だけど、甲斐君の事は好き。大好き」

「甲斐君のギター、また聞きたいって思うもん」



「あ、タオル換えるね」

冷たいタオルが心地いい。
知美の部屋でお尻冷やしてもらってるうちに、段々癇癪起こしそうになった気持ちが落ちついていく。


「お尻、赤い?」

「うん。赤い」

「でも、お兄ちゃん手加減してると思う」

うそ。
あれで?



「私が、約束破ってライブハウスに行ってたら、きっとこんなもんじゃなかったと思う」

ぞっ。

だからといって、どんなお仕置きになったかなんて、知美も私も想像つかないけれど、

兎に角約束は守らないといけないという事は、今回の事で理解した。



ーー翌朝ーー

お尻が痛いながらも、昨日の夜、たくさん知美と喋った。
おしゃべりは楽しくって、気持ちは落ち込んでないんだけど、

でも・・・

一体どんな顔して朝ごはんを一緒に
食べたらいいの?

「大丈夫、お兄ちゃんは怒った後は、もうきれいさっぱりだから、ずっと怒ってるわけじゃないから」

なんとなく気まずい感じで「おはようございます」と言いながら席につく。

座ると、微妙にお尻が痛い。

座ると痛いように叩くんだってさ。
しばらくお仕置きされた事忘れないようにらしい。


「お尻、どう?」

で、デリカシーの無い直球質問って、どうなの?

「痛いです」

「懲りたみたいだな」

にっこり笑うなんて、意地悪。
サラサラのストレートの髪が笑うと揺れて、そんな甲斐君を見れて嬉しい。

こんな時に、笑顔見せるなんて、ずるい。キュンとしちゃう。
ひどい人!って怒った事忘れちゃう。
イケメンってずるい。
そりゃ、叱られた事は、私が悪いんだけど、
叱るなんて酷いって思いたいのに、その笑顔みたら、何でも許しちゃうようにできてる。


「甲斐君の歌声素敵だったから、私、もうい一度ライブ見たい」


「ふーちゃん!!!」 知美の悲鳴にも近い高い声。

「反省してないの?ふーちゃんは?」
甲斐君は低い声。
落ちついた声。



「お。お兄ちゃん、ふーちゃんは、反省してた。すごく反省してたよ」

「知美は黙ってろ」




「あの、私、内緒で行ったのは本当に悪かったと思ってるんです」

敬語でちゃんと言わないと・・・


「なので、事前にライブハウスに行く許可をもらいたいんです」

「駄目」

即答だー(泣)

「高校卒業するまでは駄目」

「そしたら、私、今の甲斐君の歌声と今の甲斐君が奏でるギターを聞けないじゃないですか」

「練習と本番が違うの聞いたら、練習だけ見て我慢なんて、私の人生もったいよ!」

「絶対に見たい」


「そりゃ、演奏を気に入ってくれるのは、嬉しいけど」

まいったな。

気持ちが籠ってるのが、分かるだけに。

それに、今を聞きたいという言葉が、俺には響いた。
その通りだと思う。

3年後の俺は、この音を出しているかどうか、そんなのわからない。


「うーん」

お仕置きされた後で、言うんだから、真剣なんだろうな。

「そうだな。じゃあ、年に1回だけ、ふーちゃんのご両親も行って良いと言ったらにするか?」

「そ、その時は知美を誘ってもいいでしょうか?」


やった。あと一息!

「知美は見に行きたいと、自ら発してないから駄目」

「お兄ちゃん、知美、行きたい。生の演奏。本番の演奏一度は見てみたかった。聞いてみたかったの」


「そんな事今まで言った事ないだろ」

「駄目って言われてたから。でも、でも、ずっと私も行きたかった。練習だけで我慢してたけど、
ライブ見たいよ」


「ふーちゃんが、焚きつけたんだぞ。責任取れ」

「取ります!私、知美の事守ります!」

「そーじゃなくて」

なんなんだ?
この俺が押されまくってるな。
熱量が半端ない。
気持ちが篭った言葉は、音の響きが聞いていて気持ちがいい。

「守るやつは誰か手配するから、勝手に来るんじゃないぞ。事前承諾制だぞ」

「え?いいの?」

「あんなにお仕置き中にびーびー泣いて、叱られるかもしれない覚悟で、それでもライブ見たいと言い出すなら、本当にそう思ってるんだもんな」

思わず頭を、撫でてしまう。


「けど、ご両親の許可もらってからだぞ」

ああ。もう。自然に笑顔になっちゃう。

顔が元に戻らない位に笑顔


「返事は?」

「はい」

「知美と、ふーちゃんで1回づつじゃないからな。年に1回だけだからな」


ケチ。

たくらみを先越された。

でも、でも、最初の一歩としては大成功だよね。

あんなに素敵なライブ、練習とは輝きが断然違うライブに、今年は後1回行ける!
幸せ。

勉強も頑張る。

何もかも頑張る。



******

「ふーちゃん、すごい心臓」

「私、ふーちゃんがライブ見たいって言った時、頭おかしくなったのかと思った」

「また、お兄ちゃんからお仕置きされるって、本当に心配したんだからね」

「知美、ありがと」

「相談もしないで、いきなりの展開でごめんね。でもさ、ライブはどーしても行きたいとおもっちゃったの」

「黙って行ったから怒られたからね。交渉だけはもう一度頑張ろうって思ったんだ」

「うん。うん。ふーちゃん凄いよ。尊敬する」

「甲斐君のお仕置きはすっごく怖かったし、痛かったし、恥ずかしかったから、結構勇気がいったよー」

「すごい。すごいよふーちゃん」

「ある意味怖いもの知らずだよ」

「おかげで、私もライブに行ける事になった。ありがとうね。ふーちゃん」

「最初に練習見に行こうって声かけてくれなかったら、こんなに好きな人に出会えなかったもん」

「わたしこそ、知美にありがとーだよ」


なんだか、私達の信頼関係は一層強まった。

叱られるような事したら、ヤバイ人は、本当は、とても優しくって、
こっちが真剣だったら、根負けしてくれて、尊重してくれる事も時にはあるみたい。

物事に対して、真剣かどうかっていうのは一つの基準なのかもなー。甲斐君の場合。

いい加減な態度取って!と何度もそう言えば叱られたもん。


くす。

『守るやつは誰か手配する』ってやっぱりふゆこのアオレンジャーだ。

本当は優しいの、知ってる。
奏でるメロディーでそんなの丸わかりだよ。

ハートに響く歌声が、忘れられないよ。

お仕置きの時の怖さなんて帳消しになる程に素敵なんだよ。

ファンがいないのも心配になるけどさ、ファンが多すぎるのは、気が気じゃない。

知美にすら嫉妬する私だからね。

いつか、甲斐君に私の好きが伝わりますように。