アオ12
2015/05/05
甲斐君は意外にもといってはなんだけど、優しく手当てしてくれた。
湿布をそっと貼ってくれて、テーピング。
「痛い?」
「ちょっと」
「なんか飲むか?」
「うん。あ。ハイ」
「あの、ここからは近いし、もう一人で帰れるので」
「帰る前にお仕置きはするとして、その前にまあ、聞け」
「さっきから何度もいってるけど、遠慮はかえって人を傷つけるって俺が言ってる意味、理解しようとしてる?」
「話聞いてるのか?」「まったく」
「知美が仮にけがをして、『いいから、何でも無い』って言われたらふーちゃんどう思う?」
ともちゃんで考えたら分かるけど、なんか自分の事になると、気持ちだけで、もう大丈夫だからって思っちゃう。
「人が嫌がる事はしないって習っただろ。”よーちえん”で」
あ。赤面するのが自分でもわかる。
だって、顎つかまれて、顔あげさせられて、ただでさえ恥ずかしいと思ってるのに、
『目をそらすなっ』て言われたって無理。
「か・・・い・・くん・」
「素直が一番。わかった?」
「人の気持ち、ちゃんと受け取れ」
・・・
「返事は?」
・・・
ギブアップ
「わかった」
やっと放してくれた。カッコよすぎて死ぬ。
ふゆこの『分かった』は全然わかったような音として響いて来ない。本心から言ってない音位聞き分けられる。
お仕置きするとは言ったものの、様子みてお説教して解放しようかと半分位は思ってたけど、駄目だなこれは。
「素直になれる?」
「うん」
結構しつこいな。甲斐君。
「ふーちゃんは、バンドの演奏の音聞いてる時は素直なんだけどな」
くすっ
あれ?今ちょっと甲斐君笑ったような?
「さ、膝においで。ソファーの上に横になって。今日は足首に負担かかるといけないからな。足は下ろさないで、ソファーにそのまま横になれるだろ?」
優しい気遣いだけど、お仕置き無しにしてくれない所は、やっぱり優しくはない。
嬉しくない。こんなの。
お尻痛くされたくない。
イヤイヤ。イタイの嫌だ。
折角野外のライブで楽しかったのに。
足が痛いだけでも、ちぇってなってるのに。
なんで甲斐君は送るって言ってくれたの?
優しくされたら勘違いしちゃうのに、ふゆこ。
「なんか、落ちつかない。誰か帰ってきたりとかしないよね?」
「それが嫌だったら、さっさと横になる!」
空気がピリっとなった。
ま、家人がいる時間じゃないけどな。
ふーちゃんにはそれは教えない。
色々、反省しろ。
心配させた、罰だ。
「痛いからな」
そういって脅す。
必至にクッションに顔をうずめてるけど、足ばたづかせずに我慢しろよ。足首痛めてるんだから。
これでも心配してるのに、
酷い酷いだけで、全然反省してないだろふーちゃん。
「無理した分と、強情だった分な」
うえ~ん
ふゆこはもうとっくに甲斐君ゴメンナサイモードになってたんだけど。ごめんなさいが言えてなかっただけなんだけど・・・。
恥ずかしかったのと、嬉しかったのと、困惑したのと、わざわざ家までなんて悪いと思って遠慮したんだよ。
「だって~」
「だってじゃない!」
パチン、パチン、
パチン
我慢しなさいって言われて、
甲斐君のバカバカってクッションに向かってボカスカしたい気分になった。
パチンって軽く一回だって十分なのに。
「ふゆこ、もう分かったらー」
「ごめんなさいは?」
「ごめんなさい」
「素直になりますは?」
パチン パチン
ぶすっと小さい声で
「素直になる」
と早口で言ったら終わりにしてくれた。
「よし。終わり」
「送るから」
「・・・お尻痛くて歩けない」
「もー、そんなに笑わないで!」
爆笑だな。ふーちゃん。
やっと素直になったかと思ったら。
「足痛めたって言ったら、もうライブ来ちゃ駄目って言われるのかと思って言えなかった」
「ふーちゃんは、まずは、頼れ」
「足痛くしたって言ったら、来ちゃ駄目って言わなかった?」
「どーだろーな」
教えてくれたっていいのに。ケチ。
ケチな人の横顔は、すっごく綺麗で、すっごく優しい色の目をしてた。
「ライブ、来てくれてありがとな」
あ。ドキリとする。
頼れって言われたのは、特別扱いだって。そう、その口から言ってくれたら私は安心できるのに。
「そんなにじ―って見て、珍しいもの見たような顔するな」
・・・
甲斐君、女心分かってない!もう!
「送ってください」
やけ。こうなったら。
ポンポンって頭撫でてくれた。
チャリって車の鍵?
「車?車で送ってくれるの?」
「ん。ふーちゃん歩けないんだろ?駅まで歩いて足が痛いのよりは、座ってお尻痛い方が我慢できるだろ」
今、言った後、下向きながら笑ってましたね?甲斐君。
「笑うなんて酷い」
「笑ってないよ。ふーちゃん」
絶対笑ってた。
荷物をさっと持ってくれたりする所とのギャップが激しい。天国と地獄に忙しく行ったり来たりだよ私。
「その靴、辛いか?知美のこれ車まで履くか?」
玄関に出てたクロックス。さり気ない気遣い。
「ありがと。そーしよっかな」
『送って』ふつ―に考えたら何でも無く言えそうなのに。
『言っても言わなくても叱られるのなら、ちゃんと俺に言って叱られろ』って無茶な事を運転しながら甲斐君は言うから、
「お尻痛いのしなくったって、わかるのに」
窓の外を見るふりしてぷいってした。
だって、”言ったら叱られない”が本当はいいんだもん。
「ふーちゃん、返事は?」
「そっぽ向いて返事したら許さないからな」
難問が降りかかってくる。私がやりたくない事ばっかり。
甲斐君、今日は結構しつこい位にお説教だ。口調はゆったりしてるけど、絶対に今日はキチンと理解するまで逃がさないって感じがする。
家について、「湿布様子みて変えるように!」と一応心配してもらい、ようやく解放。
「自分に優しくしろな」そういって、頭に手をそっと乗せられて、嬉しいけどさ。そりゃ。
あの細く長い綺麗な指だもの。大好きな甲斐君の手だもん。
”送ってもらうってもっとロマンチックな事だと思うの”
解放されて、ともちゃんに早速ライン。
思ってる事と違う事しちゃう。ふゆこ、本当は送ってもらって嬉しかったんだ。
甲斐君が好きで、甲斐君に優しくされると嬉しくなる自分の気持ち。
甲斐君の素振りに、一喜一憂。ゆれまくり。
バカバカって本当に大好きなあの人に向かって憎まれ口聞いたら、笑って甘やかしてくれる人だったらどんなに良かったか。
そんな事、冗談でも言ったら「人のせいにするの?」とかって言いそう。あ―甲斐君なら絶対に言う。言うに違いない。
無意識にお尻に手が行ってしまう。
スパルタ過ぎる・・・。
~蓮の花~